採用から10年目を迎えて。来館者にも、清掃・メンテナンスにも優しいカーペット

日本初の公立美術館として1926年に開館した東京都美術館。日本モダニズム建築の巨匠・前川國男氏の設計による現在の建物(1975年に開館)は、都市的な空間と上野公園の自然との調和が魅力です。
2012年に老朽化に伴う全面改修を経て、延べ床面積37,748.81㎡の大型文化施設として新しく生まれ変わりました。その際に前川建築設計事務所による厳しい審査を経て採用されたのが、アントロン®ファイバーを使用した特注のタイルカーペットです。
全面改修から2021年で10年目を迎え、現在のタイルカーペットはどのような状態なのか、また日々のメンテナンスや来館者からのご感想について、お話を伺いました。
※ 2021年(令和3年)5月、取材当時。
子どもや障害を持つ方にとって優しい床材

2012年の全面改修後、展示室の床は全面カーペット敷きとなりました。また、一部の回廊やハレの日にも利用される「レストラン・サロン」にもカーペットが使用されています。
アート・コミュニケーション事業を展開する東京都美術館では、学校対象プログラム「スペシャルマンデー」をはじめ、子ども対象のさまざまな鑑賞プログラムを実施しています。東京都美術館で広報担当係長を務める山崎真理子氏によると、鑑賞プログラムでは作品の感想についてみんなで対話したり一人で熱心にスケッチしたりしますが、その際に子どもたちが床に直接座っている姿がとても多く見られるそうです。
「座り心地のよいカーペットだからこそ、子どもたちは安心して作品鑑賞に集中することができています。床はまったく冷たくないですし、ちょうどよい硬さです。プログラムによっては長時間座ることもあるのですが、子どもたちや保護者、引率者の方から不満の声をいただいたことはないですね。子どもたちが床を気にせず美術に集中できていることは、素晴らしいことだと思います」(山崎氏)。
大改修では床材の刷新だけでなく、車椅子の方が利用できるエレベーターや段差のスロープ化を施すことでバリアフリーを実現しました。バリアフリーマップ作成のための調査に訪れた車椅子の方やご高齢の方からも高評価の声をいただいたと、管理係の茂木大輔氏は振り返ります。
「カーペットの施設だと車椅子を動かしにくいことが普通なのだそうですが、東京都美術館は弾力があるのに、とても移動しやすいという感想をいただきました。また、万が一倒れても怪我しにくい柔らかさであることも高評価です。タイルカーペットのつなぎ目もほとんど目立たなく、杖の先端がカーペットに引っかかるようなこともありませんでした」(茂木氏)。

子どもたちや障害を持つ方、すべての人が何のためらいもなく来館できる、すべての人に開かれた「アートへの入口」であり続けるという東京都美術館の使命(ミッション)に、アントロン®ファイバーがその一部として貢献しています。
清掃のプロフェッショナルも認める掃除のしやすさ

“その日の汚れをその日に落とす”という清掃方針を掲げている東京都美術館では、開館前と閉館後の毎日2回に分けてメンテナンスをしています。カーペット専用のバキュームを使い、あまり人が立ち入らない場所についても、くまなく清掃しているそうです。22年間、さまざまな現場で清掃業務に従事し、現在は東京都美術館を担当する清掃事業者、荒義則氏は語ります。
「朝の約1時間30分をかけて、企画棟の全フロアのカーペットを3人で清掃しています。別の現場と比べてもごみや汚れが取れやすく、施設規模の割にかなり短い時間で清掃できていますね。おかげで朝の時間帯には必ず清掃が完了しています。
ジュースやお茶のようなシミ取りについても、一般的なカーペットよりもきれいに取れますね。清掃担当者には本当にありがたい素材だと感謝しながら清掃しています」(荒氏)。
しかし日々の清掃業務で万全を期しても、すぐに対処できない汚れが突発的に発生することもあると茂木氏は語ります。
「突発的なトラブルで汚れが着いてしまっても、タイルカーペットは簡単に取り替えすることができるため、すぐに元のきれいな状態に戻せるのです。取り外したカーペットは丁寧に時間をかけてクリーニングすることができますし、色や繊維の質感にも変化はありません。そのため、元の場所に戻してもまったく違和感がないのです」(茂木氏)。
タイルカーペットの取り外しには10分も掛からないため、他のお客様の鑑賞を邪魔することはないといいます。その他、ガムが付着した際にもカーペットを取り外してのクリーニングを行なっているそうです。専用の強力な溶液でゴム成分だけ溶かすのですが、弱いカーペットファイバーの場合は溶液の強さに耐えきれず、色があせたり、繊維にダメージを受けることも。しかし、アントロン®ファイバーの場合、溶剤を使っても繊維が傷まず、そのままの状態を保てています。
採用から10年目を迎えて。擦れやほつれもなく、次の大改装までもつ可能性も

多いときは1日1万人、年間では300万人もの来館者がある東京美術館。2012年の全面改修から今年で10年目を迎え、アントロン®ファイバーを使用した特注タイルカーペットはどのような変化が見られたのでしょうか。
「普通のカーペットを長年使っていますと、剥げてきたり、擦れやへたりが目立ってきます。カーペット清掃で使用するバキュームは、床をたたいてローラーを回し、吸引する機械ですので、カーペットは少しずつ傷んでくることが普通です。
しかし、この素材に関しては9年経った今でも本当に糸のほつれが見られません。清掃している我々にとっては非常にありがたく、本当によくできている素材だと思いますね」と荒氏は満足げに語ります。
東京都美術館以外の施設でも管理業務を経験されてきた茂木氏も、経年劣化が少なく、コストパフォーマンスが高い点を高く評価しています。
「美術館では移動できる可動壁を、レイアウトにあわせてその都度設置しています。可動壁は非常に重いので普通は跡がついてしまうものなのですが、移動後しばらくすると見事に平らに戻っており、とても驚きました。
カーペットはどうしても2年ほどで傷んで白くなってしまうため、どの施設でも経年劣化は1つの課題です。しかし、東京都美術館に着任してから、カーペットの痛みや大規模修繕の話は聞いたことがないな、と。
2012年に購入した予備の在庫で充分だと判断していますので、タイルカーペットの買い足しは必要ありません。いつになるかは分かりませんが、次の大改修までもつのではないでしょうか」(茂木氏)。
美術館に求められるカーペットの役割とは

美術館におけるカーペットの役割について、山崎氏と荒氏の両名にお話を伺いました。
「展示室内では静音性・メンテナンス性・美術品を損なわない景観がカーペットには求められます。その中でも最も求めるところとして、来館者に床を気にしないで美術鑑賞していただくことです。疲労や足音、床の反射といった小さなことでも鑑賞の妨げになります」(山崎氏)。
「職業柄、さまざまな現場を回ってきました。豪華さを求めるホテル施設では、毛先が長く、ふかふかしたカーペットがよく採用されます。見栄えがよい反面、毛が抜けやすく汚れやすいため、数年で取り替える必要がでてくるのです。その場合、タイルカーペットのように一部だけクリーニングもできず、全面を張り替えることになります。
東京美術館には老若男女、多くの方が訪れるため、丁寧かつ時間通りに日々清掃しなければなりません。そのため、汚れが落としやすい素材がカーペットには求められます」(荒氏)。
人々の「心のゆたかさの拠り所」として

取材の最後に、今後の展望とアントロン®ファイバーの特注タイルカーペットに期待する役割を、山崎氏に伺いました。
「東京都美術館は、新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる『創造と共生の場=アート・コミュニティ』を築き、「生きる糧としてのアート」と出会う場であり続けたいです。そして、人びとの『心のゆたかさの拠り所』となることを目指していきます。
そのためにも、お客様が作品の鑑賞に集中できる環境を作ることは、とても重要なことだと考えています。また、美術作品を清潔な空間の中でベストコンディションに保ち、後世に伝えていくことも美術館の重要な役割です。カーペットは空調や照明とともに美術館を支える、とても重要なパートナーだと思います」(山崎氏)
東京都美術館
住所:〒110-0007東京都台東区上野公園8-36
TEL : 03-3823-6921
FAX : 03-3823-6920
開館時間 : 9:30~17:30(入館は17:00まで)
※特別展開催中の金曜日:9:30~20:00 当分の間、夜間開館は休止します。
休館日 : 第1・3月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)
※特別展・企画展:月曜日休室(祝日・振替休日の場合は翌日)
※年末年始のほか、整備休館など臨時に休館及び開館することがあります。
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レストラン・サロン
住所:〒 110-0007 東京都台東区上野公園8-36 東京都美術館内
TEL:03-5832-5101
管理係 茂木大輔氏
・・・建物管理業務
清掃事業者 荒義則氏
・・・清掃業務(メンバー総勢21名)
広報担当係長 山崎真理子氏
・・・広報業務
メーカー 東リ株式会社
製品 特注タイルカーペット (アントロン®ルーミナ™原着ナイロン6,6)
アントロン®については、 こちらからお問い合わせください。